目押しコンシェルジュ【パチ屋店員 黙示録 第六話】

コラム
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この物語はフィクションです。
実在の人物・団体などとは一切関係ありません。
また、実体験を基にしていますが、脚色も多分にしています。
あくまでも娯楽読み物であることをご了承の上でお楽しみください。

私が勤め始めた頃は、まだホール店員による目押しの代行が可能だった。
働いている人の多くは最低限の目押しはできるので、特段困った事態になることはない。

が、半年ぐらい経過した時、ホール店員による目押し代行が不可に。
警察の言い分としては

「遊技の公平性を損ねる」
「それがサービスになり、射幸心を煽る」

確かこんな感じ。
特に意味不明なのは2つ目。

なぜ目押しの代行をすれば射幸心を煽るのか一切理解不能だが、警察の言う事は絶対!
この悪しき慣習は昔も今もこれからもパチンコ業界に影を落とし続けるだろう。

なんにせよ、ここで少し困ったことに。
パチスロは0.1コマでも下にズレた絵柄を引き上げて入賞させることは絶対に無理。

押すのが早い分には最大で4コマ(正確にはミリ秒で判定するはず)は滑らせて入賞させられるのだが。

で、私以外の人はこのことがイマイチ理解できていない。
要は「自分ならこのタイミングで押します」ってタイミングで押してしまうのだ。

こうすると、多くの場合で遅くなる。
誰かに今! と言われて動き出すのではタイムラグが生まれて当然。

しかも目押しができない人は、基本的にリズム感がない。
もしくは老人である。

そんな人にジャストのタイミング。
正確に言えばビタ~2コマ早いぐらいのタイミングで指示を出したのでは遅い。

人によって反応の差があるので、その点も考慮してあげないと永遠に図柄が揃うことはないのだ。
中途半端に同じタイミングでやると、ずっと同じ間違いを続けることになる。

で、どいつもこいつも下手くそ。
そしてこのタイミングの取り方を教えても全然上手くできない。

「いや、だから3~4コマ滑らすぐらいの感じで」

と言ったところで、

「何回聞いても良く分かりません」
「そもそも、私はよく見えていません」
「いや~、俺はカンペキなんすけど~、客がヘタでムリっすわ~」

…なるほど、徒労か。

諦めて私が主に目押しサポートを担当するようになる。
他の人が数分かかる、もしくは最終的にできない中、私はほぼ一発だから仕事的に考えて圧倒的に効率が良い。

仕事だからそれで良いのだ。
納得いかない部分はあったけども。

さて、そんな中特に手を焼いていたのが通称『ジャグ爺(ジャグじぃ)』である。
彼は齢80を軽く超えているが、常にジャグの角台に腰を下ろす皆勤賞の狩人。

その動きには一切の迷いがなく、GOGOランプ点灯と同時に呼び出しランプを点灯させる強者。
そして全く目押しができない。

しかも、日によって、というかほぼ毎回ボタンを押すタイミングが違う。
こちらが今とタイミングを教えてからスグに押すこともあれば1秒ぐらい遅いこともある。

難敵であり、私以外の誰もジャグ爺のサポートを成功させられる者はなかったほど。

とは言え、最大で1秒程度しかズレないのであれば、聴牌ラインと引き込み数を考えればいくらでも対処可能。
この難敵をもあっさりと攻略した私は、晴れてホールの目押しコンシェルジュとなった。

…いや、仕事が増えただけやないか!
パチンコ島の担当だろうが、他の雑務をしてようがお構いなし。

特にジャグ爺がペカった際には速攻で私にインカムからヘルプが届く。

「(いい加減にしろよ、コノヤロー)」

思っていても口には出せない、そしてどんだけ教えても他の奴らはなぜかできない。
最初はワザとか? とも思ったがどうやらそ~でもないらしい。

これで実はジャグ爺が大金持ちで、その遺産が。
なんて漫画や小説チックな展開になれば面白かったが、当然そんなこともなかった。

事実は小説より奇なりと言うが、往々にして事実は所詮事実である。

それから半年ぐらい経過し、目押しのサポートもダメ!
というお達しが届いて、私の目押しコンシェルジュ業務は完全に終了。

仕事が減ったことは素直に嬉しかったが、ペカる度に困っているジャグ爺を見るのは少し可哀想な感じがした。

「(なんか、本当に変なお達しばっかりの業界だな)」

そんな感じで1ヶ月ぐらい経った頃。
ジャグ爺は…。

 

 

 

 

 

結構なレベル(3~4回で成功する)の目押しスキルを身につけていた!

…。
なんじゃそりゃ。

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