エアコン騒動 【パチ屋店員 黙示録 第五話】

コラム
この記事は約5分で読めます。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体などとは一切関係ありません。
また、実体験を基にしていますが、脚色も多分にしています。
あくまでも娯楽読み物であることをご了承の上でお楽しみください。

前回の続きなので、詳しくはコチラを先に読んでいただきたい。

簡単にまとめると、私は勤めているホールのホームページを作る羽目になってしまったって話。

件のホームページ制作を開始してから1ヶ月とちょいが経過。
いよいよ完成は間近になり、本来は休日であったその日に私は事務所で仕上げの作業をすることにした。

今の私ならなぜ休日を潰してまで。
と鼻で笑ってしまうが、この時はなんだかんだで完成が嬉しく、休日云々はどうでも良かったのだ。

30度を軽く超える暑さの中、事務所に入った私は違和感を覚える。

「(あれ? なんか事務所暑くない?)」

そんなことを思うと同時に、トンデモナイ量の汗にまみれた柳本さんが現れる。

「あれ? エージ君どうしたの? 今日は休みでしょ」
「そうなんですけど、ホームページを仕上げちゃおうと思いまして」
「そうか~、悪いね。でも、今日は来ない方が良かったかもよ」

聞けば事務所のエアコンがぶっ壊れたらしい。
なるほど、この暑さの原因はそれか。

柳本さんは異常な暑がり。
普段なら20度とかまで設定温度を下げた上で暑いと宣うほど。

そんな彼がこの状況下にあれば、汗だくにならないはずがない。

「もう修理業者には連絡してるから、昼過ぎには来るってさ」
「そうですか、まぁ私はなんとかなりますけど、柳本さんは死活問題ですね」
「ホントそうだよ。可能な限りホールに出てるんだけど、動いたら暑いのよ」

ホール内の設定温度は26度ぐらい。
彼にとってはこの温度で労働は厳しいのだ。

「まぁ、とりあえず私は作業しますから」
「うん、よろしくね」

水分補給と汗を拭いた後、柳本さんはホールへと戻った。

「(さて、今日中に仕上げて終わらせよ)」

そんなこんなで私は作業に取り掛かった。
少し離れた場所で小さなジョーカー(鈴元)が事務作業をしている。

もとより冷え性を豪語していた女帝は、私でも暑いと感じる中で膝掛けを使用するという離れ業を見せ、格の違いを思い知らせてくれる。

ともあれ、作業自体は至って順調。
FTPでサーバー側を弄ったり、画像サイズの微調整などで思いのほか時間を食ったが、大きな問題は起こらなかった。

そんな作業をしている最中に業者が現れ

「あ、これならスグに直せますんで~」

と言って、本当にあっと言う間に直して帰って行った。

柳本さんは歓喜。
結論から言うとこれが私にとっては災難の引き金だった。

時刻はなんだかんだで午後5時。
ジョーカーはそそくさと帰宅(定時)。

それを見計らってか、柳本さんは解き放たれた様にエアコンの温度を下げる。
グングン下がる室温。

「…いや、さっぶい!!」

私は驚きながら設定温度を確認。

「18度!!」

バカか!
こんな温度設定にされたら死ぬわ!!

しかし当の本人は至福の表情である。

立場上強く言う事は難しい。
だからといってこの状況を続ければ私に死の可能性がある。

「すみませんけど、ちょっと寒いんで温度上げてもらえますか?」
「あぁ、そう。ちょっと下げ過ぎたかな」

いやいやどうして、やはり彼は悪い人ではない。
こうした温度設定では頑なに譲らない人も少なくないと聞くからね。

…そして彼が設定した温度は20度だった。
立場が立場なら戦争である。

しかし、現状では私に分が無いのは明白。
よくよく考えれば、残っている作業はわずかだ。

30分もあれば片付くだろう。
そう思った私はもう何も言わずに作業を進めた。

寒さに震える手で必死に作業をこなし、私はやり遂げる。

「終わりましたんで、帰ります」
「え、本当!? あ~結構ちゃんと出来てるじゃんか、ありがとう」
「まぁ、細かいこととかは後日ってことで」
「うん、了解。お疲れ~」
「失礼します」

車に逃げ込んだ私が夏場なのに暖房を入れたことは言うまでもない。

さて、ここまで読んでくれたアナタはとっくに分かっているだろう。
まさにその通りで、この「暑→激寒→温」という気温変化のコンボによって、私は見事なまでに風邪を引いたのだ。

思えば不運が重なったのは間違いない。

エアコンが壊れていなければ、汗をかきながら作業をしないで済んだだろう。
直った時に柳本さんもあれほど温度を下げなかったかも知れない。

私の作業がもう1時間ぐらい早く終わって、事務所内にジョーカーが居れば大丈夫だった可能性も高い。

まぁ、どうあれ20歳を超えてから久しぶりにガッツリと風邪を引いた私は、38~39度台の高熱を叩き出して3日ほど寝込んだのだった。

3日後、私は仕事に復帰する。

「あ、もう大丈夫? ちゃんと気を付けて体調管理しないとね」

柳本さんの第一声である。

「どの面下げて言ってんだテメーは! 原因はテメーがエアコンの温度を下げ過ぎたせいじゃろがい!!」

と思ったが、この頃の私はこれを口に出すことはできなかった。

「あぁ、すみませんでした。気を付けます~」

まぁ、確かにシフトに穴を開けたのは事実だし、柳本さんは嫌味で言っているわけじゃない。
少々情けない気もするが、このぐらいの対応がベターであろう。

早番を共にしている河口さん(ザ・普通の女性)なんかは

「あ、もう大丈夫ですか~。治って良かったですね~」

と普通に対応してくれた。

中原さん(小さな菅原文太)に関しては特になし。
予想通りと言えば予想通りだ。

「アレ? ダイジョブなんすか~? イヤ、マジでカゼとか移さないでくださいよ~」

…小谷よ、心配するな。
バカは風邪を引かないから。

エアコン関連で言えば、真夏にホール側のエアコンがぶっ壊れて地獄の様な状況になったことも1度あった。
機械熱もあるから、トンデモナイことになったのは鮮明に覚えている。

めちゃめちゃ謝りながら近くのスーパーで買って来た冷たい飲み物を配って周ったり。
基本的に激怒されたけどね。

そりゃそうだ、私が当事者でも不快感を態度で示すだろう。

でも、面白いのはそんな状況なのにほぼ100%の人が打つのを止めないこと。
地震や停電の時もそうだけど、パチンカーやスロッターはある意味スゴイ。

命を投げ打ってでも打つ手を止めない離さない。
そのしつこさと情熱を他の有意義なことに使っていれば、今頃は結構な金持ち(成功者)になったことだろう。

不思議とエアコン騒動は冬場に起こらなかった。
だからこそ、夏が来るとこんな感じの騒動を思い出すのだろう。

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