夏が来れば思い出す 【パチ屋店員 黙示録 第四話】

コラム
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この物語はフィクションです。
実在の人物・団体などとは一切関係ありません。
また、実体験を基にしていますが、脚色も多分にしています。
あくまでも娯楽読み物であることをご了承の上でお楽しみください。

私はずっとガリガリ体型。
要は寒さにメチャクチャ弱いのだ。

変温動物ばりに体に影響を及ぼし、下手すりゃその日が終わるレベル。

なので、基本的には夏場でも長袖を常に着ている。
一重で目つきが比較的鋭いことも相まって、

「あんた刺青でも入ってんの?」

なんて言われることもちょくちょくあった。
当然、そんなことはない品行方正な好青年であることは言うまでもない。

さて、そんな私は夏が来るとあの日のことをふっと思い出す。
そう、あの激烈な『エアコン戦争』のことを。

パチ屋の勤務を始めてから3ヵ月ぐらい経った。
季節はすっかり夏である。

ホール勤務においては何の問題もなくこなせる様になり、比較的安定した毎日。
…小谷のウザさが気温の上昇に伴って倍々ゲームなのは気掛かりだが。

そんなある日、勤務を終えて事務所に入ると柳本さんに呼び止められた。

「ちょっと相談があるんだけど」
「なんですか?」

「いや、エージ君ってなんかパソコンの学校行ってたよね?」
「あぁ、はい。行ってました」

…パソコンの学校ってなんだ。
私が行っていたのはコンピューター系の専門学校であり、町のパソコン教室ではない。

「でね、ホームページってあるでしょ? アレ作れない?」

おう、いきなりどうした。
ホームページか、まぁ作れないこともないだろう。

「それを専門でやったわけじゃないので難しいのとか凝ったやつはムリですが、簡単なやつなら作れると思いますけど」

「あぁ、そう! 良かった良かった!!」
「どうしたんです? 突然」
「いや、昨日ホームページ作りませんか? って営業が来てね。どこの店も作ってるし、これからはないと競争に負けますって言われたのよ」
「なるほど、営業トークにビビったわけですね」
「別にビビってないよ。たださ、確かにこれからはそういうのも必要かな~って」
「まぁ、確かにあった方が良いでしょうね」

折しも時期的にスマホが普及し始めたぐらい。
パチ屋の情報もネットでってのが当たり前になりそうな気配がしていた頃である。

「でも、ピーワールドがあるでしょ? あれで十分なんじゃないですか?」
「俺もそう思ったんだけど、他の店は独自のホームページ持ってて集客に一役買ってますって言われてさ」
「ふ~ん。で、どんな感じのホームページを作るって?」
「あぁ、こんな感じ」

そう言って見せられたホームページは、今なら3時間なくても作れる代物。
この当時の私のスキル(HTML直打ち)でも、1ヵ月もあれば作れるだろうレベルだった。

「えぇ~、なんか大したことないですね。で、いくらなんです?」
「これと同じ感じで初期費用50万で、維持費とかなんちゃらで月に3万+α」
「は!! バカじゃねーの」

思わず口調が素になってしまった。
それほどに衝撃的なお値段だったのだ。

「いや、バカじゃないです」
「あぁ、スミマセン。柳本さんのことじゃないですよ当然」
「う~ん、そのリアクションってことはやっぱり高いよね~」
「私も相場はあんまり知らないですけど、これは高いと思います」
「だよね~。でも、周りもやってるって言われるとさ」

相変わらず図体の割に気の小さい人だ。

「気持ちは分かりますけど、止めといた方が良いと思います。経費で落とせるにしても、だいぶ足元見てるでしょ」
「ちなみにさ、これと同じ感じでエージ君ならいくらで営業する?」
「う~ん。初期費用で10~15万、維持費とかで月1万からって感じですかね」

…は!!しまった。

「ふ~ん、それぐらいか~」

柳本の目が光るのをヒシヒシ感じる。
やめなさい、ウキウキするんじゃないよ!

「じゃあ、とりあえず作ったみてよ。後で10万払うからさ」

クソ、完全に語るに落ちた。
にしても、なぜ最低価格が当たり前になっているのか。

しかし、立場も含めてこの流れから無下に断るのも至難。
キラキラした彼の目から放たれる無言の圧力ビームはサイクロプスもビックリだ。

「…分かりましたよ、作ってみます」
「えぇ~ホントに! なんか悪いな~」

そんなこんなで、この日から私は勤務時間中で柳本さんがシフトに入っている時や、ホールに私が居なくても回る時をメインに使い、事務所のパソコンでホームページを作ることになった。

家で作業しようとも考えたが、そこまで私が身を削る必要もなかろうと判断し、柳本さんにも了承を得た上での話。

この安請け合いの結果、私は数日間寝込むことになるのだが、ちょいと長くなったので分割します。

エアコン騒動 【パチ屋店員 黙示録 第五話】
パチ屋店員黙示録の第五話です。
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