普通・怖い・ウザイ【パチ屋店員 黙示録 第三話】

コラム
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この物語はフィクションです。
実在の人物・団体などとは一切関係ありません。
また、実体験を基にしていますが、脚色も多分にしています。
あくまでも娯楽読み物であることをご了承の上でお楽しみください。

正直、昨日の2人の外見的なクセに恐怖を覚えなくもない。
しかし、引き受けた以上、初日からバックレるのは大人としてよろしくないだろう。

てなわけで、定時である開店の1時間前に店に到着。
柳本さんによって早番の人に私の紹介がされる。

恵美子は本名ジョーカーではなく、「鈴元さん」。
仁義なき文太は「中原さん」。

後の2人は「河口さん」と「小谷君」。

…ふむ、杞憂だったか。

昨日の2人のインパクトが強すぎて、残りの人も似たり寄ったりだったら。
と一抹の恐怖を抱いていたが、その心配は無用だった。

河口さんなんてビックリするほど普通の女の子。
年齢は22歳で、本当に普通を絵に描いたような人だ。

「よろしくお願いします」

と、挨拶も普通。
まぁ、逆にこの手の挨拶に普通以外があるなら聞いてみたいものだが。

「エージと言います。こちらこそ、よろしくお願いしますね」

河口さんとは何の問題もなく仕事ができそうだ。
さて、小谷君は…

「あ、自分、小谷っス。よろしくおにゃしや~す」

…おや?
早速願いが叶って普通じゃない挨拶が耳に飛び込んできたぞ。

まぁまぁ、ちょっと喋り方が独特なだけで、それ以外は特に問題ないだろう。

「よろしくお願いします」

少々不穏な要素を残しつつも、挨拶は終わり。
早速、開店準備に取り掛かる。

基本的な仕事内容はどこも大きくは変わらないだろう。

店の周りにのぼり(旗)を立てたり。
店内・店外をもう一度さっと掃除したり。
閉店の時にサンドから抜いたカードやコインを入れたり。
パチンコの箱を置いたり、スロットのメダルを確認したり。

難しいことは特になく、別段問題も起きないし困ることもなかった。
柳本さんから指示を受けつつだが、初日にしてはそつなくこなせたと思う。

「いや~、さすがだね。
別に俺来なくても良かったじゃん」

「いや、まだまだ分かんないことも多いので。
柳本さんが居てくれる方が心強いですよ」

「え~、そう?
俺が居なくても十分だと思うけどな~」

…コイツは早くもサボろうとしているのか?
まぁ、基本は遅番で深夜作業までやっての今だから、文句言うのも違うか。

そんなことを思いながら、かなり気になる点が見つかった。
仁義なき中原さんが左足を引きずっている様に見えるのだ。

「柳本さん。
あれ、中原さん脚でもケガしてるんですか?」

「あ~、ケガって言えばケガだね。
もう治ってるから、後遺症って感じかな」

…え~、怖いんですけど。
どうしよう、聞いて良いのか?そのケガの理由。

迷った。
かな~り迷った。

でも、聞かなかった。
多分、全然大したこたぁないと思うけどね。

…………。

ともあれ、開店時間。

パチ200台、スロ150台の田舎にしては小さめの店に対して、開店からのお客は30人程度。

ド平日だし、お世辞にも人気店ではない。
さらに特定日でもない。

となれば、このぐらいが妥当な人数だろう。
この程度の稼働なら、裏詰まりや面倒なトラブルが起こらなければ1人でも十分に捌ける。

ただ、問題があるとすればドル箱。
昔ながらの感じで、その気になれば3,000発入る箱なのだ。

普通に入れても2,000~2,500発。
1発5.5gだから、単純計算で13.7kgぐらい。

そこそこ重い。
さらに、この箱が3箱以上。

4箱目に突入したぐらいで、いわゆる「大箱」に移し替える作業。
大箱に2箱分移して、残り1箱はそのままそこに乗せる。

開店から数時間経ち、昼前になれば稼働もある程度は上がり、何台かはこの状況になっていた。

これの一番シンドイのは流す時。
大箱は単純に27kgぐらなので、なかなかに骨が折れる。

河口さんは持ち上げることができない。
なので、大箱客の交換は私か小谷君の仕事になる。

当然、中原さんも。
ちなみに走ることもできません。

でも、私は何も言えません。
まぁ、そういうこと以外はちゃんと仕事してくれてるしね。

大箱交換もそこまで頻回にあるわけじゃなし。
ただ、私は強く心に決めた。

これは気を付けてやらんと腰をいわせる。
なので重量挙げなどを参考に

・しっかりと膝を使ってまずは腰の高さに
・ベルトに大箱を引っかけ、そこから計数機へ

という動きを徹底することを。
通常の箱の上げ下ろしや、コインタンクへの補充など。

20kgを超えるような作業は必ず注意して行う。
昔のバイトの時から、腰をいわせた人を多く見たから尚更。

小谷君は結構に力任せな感じだ。
まぁ、私より体格も良いし自信があるのだろう。

そんなこんなで16時半。
初日の勤務が終わりを告げる。

終わってみれば何と言うことはなかった。
あらゆる面で問題ない。

タイムカードを押し、帰り支度を整えて向かった駐車場には小谷君が居た。

「あ、おつで~す」

「お疲れ様です」

「なんか、あれっスね。
やっぱ前に働いてたから、けっこう仕事ちゃんとできるんっスね」

「あ~、そう?
迷惑になってなければ良かったよ」

…なんだ、その喋り方は。
こういうアホ丸出しの調子乗りが私は大っ嫌いだ。

少々、いや結構な感じで寂しくなっているテメーの頭。
その残り少ない毛をむしり取ってやろーか!!

「んで、あれっスか?
それがエージくんの車っスか?」

「うん、そうだよ」

「なんか、あれっスね。
チョーふつうってか、ミライース。軽っスか」

何が悪い。

軽の方が税金も安いし、この車は燃費も悪くない。
遠出をしない私にとって、小回りも効くこの車は最適解だ。

そりゃ、その気になれば3~400万ぐらいの車は余裕で買える。
だが、車をはじめとして、いわゆるブランド物に一切興味が無い。

というか、そういうのに金を使う奴をアホだと思っているぐらいだ。

「ちょ、自分のみてくださいよ。
けっこうカスタムしてるし、いい感じっしょ」


……
…………ダサい。

美的センスや趣味趣向は人それぞれ。
だが、多分100人に聞いて103人はダサいと言うだろう。

いわゆる「ヤンキー車」である。
ケバイ赤の外装に、パッと見の範囲でシルバニアファミリーぐらい居るぬいぐるみ。

「あ~、そうね。
あれだね、ぬいぐるみが凄いね」

「あれは女のっスよ。
俺はのせたくないんっスけど、しょうがないっスよね」

ぬいぐるみが全部チャッキーみたいになって襲われれば良いのに。

しかし、こんなアホ丸出しで外見もシンドくて、センスもアレで26でバイト。
そんな奴にでも彼女が居るんだね。

本当に世の中広い。
蓼食う虫も好き好きとはよく言ったもんだ。

こんなことを頭で考えながら、適当に車を褒める。

「いや~、そうっしょ。
俺もかなりイイ感じだとおもってんっスよね~」

「んじゃ、お先っス」

…………!!
ほんで、エンジン音もやっぱり喧しいんかい。

人をディスり、自分の自慢だけをしてマウントを取った気分になったのだろう。
満足そうな顔で彼は帰って行った。

…………まぁ、いいや。
アホと話しても良いことないし、帰ろ帰ろ。

正直、良い気分なわけはなかったが、立場的にも大人の対応が必要。
受け流すに限る。

仕事自体は問題ない。
が、全然別のところから湧いて出た疲れにより、いつもより数時間早い睡魔が到来。

数年ぶりに泥の様に眠るのであった。

夏が来れば思い出す 【パチ屋店員 黙示録 第四話】
パチ屋店員黙示録の第四話です。
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