深淵からの誘い 【パチ屋店員 黙示録 第一話】

コラム
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この物語はフィクションです。
実在の人物・団体などとは一切関係ありません。
また、実体験を基にしていますが、脚色も多分にしています。
あくまでも娯楽読み物であることをご了承の上でお楽しみください。

「んじゃ、早速だけど明日からお願いね。
とりあえず初日だし、昼過ぎに事務所に顔出してくれれば良いから」

「はい、分かりました。
よろしくお願いします」

今にして思えば、これが地獄の一丁目である。

ゲームが作りたい。

と勇んで専門学校に行ったくせに、途中でパチンコにバカハマリした結果、とある戦国モノのパチンコを作っているメーカーの下請けに就職した私。

で、あまりにも気に食わない会社の体質や業界のあり方に嫌気が差して2年弱でケンカ別れ。

なまじパチンコで生計を立てられるだけ稼げたせいで、再就職もせずにダラダラとパチプロに。

そんな良い感じのダメ人間をやっていた私に、昔の馴染み。
というか世話になった人から連絡が来た。

この電話に出なければ。
と悔やまれてならないが、今となっては後の祭りである。

「あ、エージ君。久しぶり、元気?」

「あ、柳本さん、お久しぶりです。
一応はそれなりに元気に生きてますよ」

「そうか、そりゃ良かった。
で、突然で悪いんだけど、近いうち、一週間以内で時間作れないかな?」

「どうしたんですか?
急用なら電話でも良いですけど」

「いや、電話でするような話でもないから。
久しぶりに顔も見たいしさ」

「あ~、そうですか。
別に私は時間大丈夫なんで、柳本さんの都合に合わせますよ」

「本当!?
なら早速だけど明日、○○って喫茶店分かるかな?俺の店の近くなんだけど」

「あ~、分かりますよ」

「そうか、んじゃ明日の3時、午後のね。
その店まで来てくれる?」

「午後の3時に○○ですね、了解です」

「良し、んじゃそういうことで。
突然で悪いけどよろしくね~」

こんな感じの電話。
よくよく考えれば怪しさ満点過ぎ。

が、当時の私はこれを書いている時より8割ぐらい輪をかけてバカである。

こんな見え見えのゴキブリホイホイに、文字通りホイホイと掛かるほどに。

翌日の指定時間。
喫茶店に入った私はかれこれ15分程度待たされるハメになる。

私があらゆる場面で5分前には集合するタイプの人間であること。
柳本さんが基本的に遅刻するタイプの人間であることから、この状況は日常。

それでも、普段の彼からすれば相当に早い到着だ。
このことからも、話の内容が少々重いものであろう想像は出来ていた。

「いや~、相変わらず時間守るね。
待たせちゃった?」

「いえ、そんなに待ってませんから、お気になさらず」

悪い悪いと口で言うのは簡単。
アンタはただの一度も、立場が下の人間との待ち合わせで時間を守ったことはないだろうに。

いつもの。

なんて漫画や映画ぐらいでしか聞かないような注文の仕方で甘ったるいコーヒーを注文する彼を見て、心の中で真空飛び膝蹴りを喰らわせていた。

糖尿になる日も遠くないだろう。

ちょっとした近況報告と挨拶を済ませると、彼の表情と声色が少し変わる。

「で、早速なんだけど。
ウチの店のホールマネージャーやってくれない?」

飲んでいたオレンジジュースを盛大に噴き出す。
・・・なんてなことはなかったが、驚きは隠せなかった。

「なんでそんな話に?
田中さんが居るじゃないですか」

「それがね、田中が突然辞めることになっちゃって。
なんか離婚したから実家に帰るんだってさ」

「いや、だとしても。
別に私じゃなくて良いじゃないですか。他にいくらでも従業員居るでしょうに」

「それがね~、今正社員が他に2人しか居ないのよ。
後は全部バイト」

「は!?なんでそんなことになってるんですか?」

「いや、なんかコンサルに聞いたら人件費を削りましょうって。
結構な金額浮く感じだったから、良いかなって」

なるほど、確かにこの人は昔からこうだ。
勢いの良さと比例して無計画。

これが二代目のボンボンが成せる業の一つということか。

コンサルの話を真に受けるのもどうかと思うが、このやり方で今までホール経営が成り立っていたことの方が驚きである。

「でさ、知ってるかもだけど、正社員って2人とも俺より年上。
言っちゃうと初老なの」

「あ~、確かそうでしたね。
柳本さんの父親の代から働いてるんでしたっけ?」

「そうそう、だから2人とも初老なの。
しかも1人は事務員のオバサンで、パチンコのことなんて全然知らないわけ」

「なるほど、それである程度若くて、パチンコの知識がある奴居ないかな~って話ですか」

「そう、そういうわけ」

~わけ。
じゃねーわ、なんだその喋り方は。

「でも、それこそ中途で採れば良いじゃないですか。
私はホール経営とかはやったことありませんよ」

「うん、知ってる。
でもさ、今までも何回かイベントの内容とか設定配分とか相談してたじゃない?」

「あ~、確かに何回かやってましたね。
イベント禁止になってからはやってませんけど」

「そうそう。
でね、その時のイベントが結構稼働が良かったわけよ」

「そこで俺はピンと来たわけ。
ここはエージ君に手伝ってもらう方が早いなって」

はは~ん。
読めたぞ。

中途採用で求人出すメンドクサさ、それに掛かる費用と新たに雇用する人の人件費を考えると少々痛い。

であれば、知り合いな上に世話をしたこともある私を安く使ってやろうという腹か。

ふん、そんな見え見えの策略に引っかかる私ではない。

・・・と、今の私なら思うだろう。

が、先にも書いたように、この頃の私はなかなかに残念な頭の持ち主。
故に

「そうだったんですか!
私もホール運営とか興味あるんで、是非手伝わせてください!!」

と、まぁなんともアホ丸出しに二つ返事である。

「本当!?いや~良かった良かった。
断られるかな~と、ちょっと思ってたからさ」

「いや、私もいつまでもフラフラしてるのもどうかと思ってましたから」

「そうかそうか。
いわゆるWIN WIN って感じになったね」

なんとも朗らかな感じになったが、今の私がこの状況を表現するなら

私:渡りに船だと思って乗ったら、実は泥船で、すでに軽く浸水してました。

彼:カモが葱と鍋とコンロを持って来た。

と、こんな感じであろう。
まぁ、実際の所、柳本氏にこれほどの裏というか、イヤな感じがあったかは謎。

なぜなら彼はそんなに腹の中に闇を抱えるタイプではないから。
もっと言えば、かなり顔に出るタイプ。

ポーカーなんてヨワヨワだろう。

ここまで話が進み、冒頭に戻る。
これにより、私はパチプロ専業生活に一旦の区切りをつけることに。

そして地獄。
とまでは言わないが、なかなかに香ばしいパチンコ店員生活が幕を開ける。

第二話は以下から

仁義なきおしゃべりクッキング【パチ屋店員 黙示録 第二話】
【パチ屋店員 黙示録】の第二話です。
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