仁義なきおしゃべりクッキング【パチ屋店員 黙示録 第二話】

コラム
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この物語はフィクションです。
実在の人物・団体などとは一切関係ありません。
また、実体験を基にしていますが、脚色も多分にしています。
あくまでも娯楽読み物であることをご了承の上でお楽しみください。

「あ、柳本さん。
今着きました」

「了解。
ちょっと待ってて」

昼の12時過ぎ、私は昨日の約束通りに柳本さんの経営するホールに到着した。
電子ロックが掛かっているので、事務所に入るには開けてもらう必要がある。

「いや~、お待たせ。
入って入って」

ドアから出て来た彼は、まだ肌寒さを感じる気候なのにバッチリ半袖。
極度の寒がりである私は片やダウン着用である。

「…暑くない?」
「いえ、私は寒がりなもんで」

夫婦ならこれが引き金で離婚問題に発展しても不思議ではない。
それほどに気温に対する感じ方が違う。

事実、このことが後々になってちょっとした問題になる。
が、今は関係ない話。

事務所に入り、勤務に関する説明を受けた後、雇用契約書などにサイン。

「でね、一応エージ君は他のホールでマネージャーとして実務経験アリってことになってるから」

「はい!? 言いましたし、知ってますよね? ホールはバイトでちょろっと働いただけですよ」

「うん、知ってる。
でもさ、ペーペーがいきなり上役ってんじゃ波風立つかも知れないでしょ?」

「いや、確かにそうですけど。
別にマネージャーって肩書じゃなくても」

「だってそれじゃ俺が居ない時の責任者が居なくなるじゃない。
言ってもあれだよ、形だけ」

「いや、そうだとしても…」

「大丈夫だって。
メーカーとかにも居たんだから、知識的にはなんの問題もないでしょ」

「なんか上手く行かない時は、ホールごとに違うから。
とか、適当に誤魔化してればダイジョブ、ダイジョブ」

大丈夫。がダイジョブの二連荘になってる時点で私に反論の余地はない。

「分かりました。
まぁ、なんとかやってみます」

すでに社会人の嫌な所が前面に押し寄せているが、ある程度は仕方ないし覚悟もしていた。

しかし、こういう嘘は吐かない方が良いのは当然だ。
どこかでボロが出てメンドクサイことになる可能性を高めるから。

だが、現状は逃げ道がない。
やっていくしかないだろう。

「んじゃ、そういうことで。
勤務は明日からね」

「基本的には早番で入ってもらうから。
状況によって遅番とか、通しもあるだろうけど」

「分かりました」

「あ、もちろん明日は俺も来るから。
いきなり一人にしないから安心してよ」

…なんか良い人でしょ?
みたいな言い方をしているが、そんなもん当然だろうがよ。

さて、白シャツとスラックスを買いに行くかな。

「それじゃ、私はこれで失礼します」

「うん、気を付けて。
よろしくね~、マネージャー」

満面の笑みに対して、これ以上ない程の愛想笑いを振りまきつつ事務所を出ようとした時、ドアが開く。

「あら、アナタが新人さん?」

そこに立っていたのは「おしゃべりクッキング」でお馴染みの関西の大御所。
彼女と比較しても全く引けを取らない程に濃いメイクの小さな女性。

香水の匂いも素晴らしい。
正にお手本、絵に描いたようなオバはんである。

あ、この人が古株の社員か。
その思考に至るまでになかなかの時間を有した。

それほどにインパクトは強い。
呼び方は「恵美子」、もしくは「ジョーカー」でファイナルアンサーだ。

「そうです。明日からお世話になりますエージ(本当は苗字)です」

「はい、よろしく。
鈴元です」

…う~ん、メンドクサイ感じ。
というか、取っ付きにくい。

まぁ、いわゆるお局。
いや、それ以上の立場であるならこの対応も当然か。

「…はい、じゃぁ私はこれで失礼しま~す」

詰め方を間違えると取り返しがつかない可能性がある。
とりあえずは距離を取って様子を見よう。

そう思いそそくさと事務所を出ようとすると、もう一方のドア。
ホール側のドアが開いた。

あ、ホールで働いてる人なら、とりあえず挨拶しとくか。
そう思い踵を返す。

いやいや、なにこの店。
怖い怖い。

だって、そこに居るの菅原文太じゃん。
小さいよ、確かに身長は本家より小さい。

でも、顔とか雰囲気とか完全に仁義なき戦いの文太じゃん。

「おどりゃ、どこのもんじゃコラァ!」

とか言われそうなんですけど。

なに、恵美子と文太のコラボレーションって。
恵美子は見方によってはジョーカーだからね。

ゴッサムのカリスマと広島ヤクザの饗宴。
いや、狂宴か!

…いかん、あまりにキャラの濃い人の連続に取り乱してしまった。

「あ、こんにちは。明日からお世話になるエージと申します。
よろしくお願いします」

そつがない。
顔は少々ビビっていたかも知れんが、問題のない挨拶だろう。

これで本当に「なんじゃ、ワリャ!」みたいな言葉が飛んで来たら明日から来るの止めよ。

「…どうも」

そんだけ!?
いや、逆に怖いんですけど。
一応は接客業やってんですよね?

なに、見た目は文太で中身は高倉の健さん!?
社員が二人ともこれってどうなのさ!!

この人も距離の詰め方を考える必要があろう。
ともかく、今日のところは退散だ。

失礼のない様に脱兎のごとくその場を去るという、我ながらなかなかに難しい立ち回りをこなし事務所を後にする。

帰りの車の中で、事務所の光景を俯瞰で見直してみる。

………

…………

……………………

私は明日から大丈夫なのだろうか?

普通・怖い・ウザイ【パチ屋店員 黙示録 第三話】
パチ屋店員黙示録の第三話です。
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